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訳注:本編は著者ライト氏の許可を得て翻訳したものです。オンラインでの公開も許諾頂いておりますが、無断転載はお断りいたします。
「何か船のために」
スーダの個室の天井裏には人がやっと這える低い隙間がある。行き詰るような暗闇の中、魔物たちは再びざわめき始めていた。
「何か船のためになることがしたいだけです。」ズキズキと痛むスーダの頭の中で同じ言葉が何度もこだましていた。思いがけず、ありがたいことにこの日の午後、トゥボックとジェインウェイ艦長が部屋を訪ねてくれた。しかし数分後には、お決まりの苦い表情を浮かべて出て行ってしまった。スーダに出会う誰もが向けるあの目線。「何か船のためになること」それ以来何を考えていてもこの言葉が頭を離れなかった。
「目つきが気に入らなかったんだ。」何週間も前だったら、ダーウィンを殺したように彼らのことも殺してしまっていただろう。いまですら、トゥボックのおかげで養われた自己抑制を総動員して、それでも血の報復を求める気持ちを完全に鎮めることはできないが、どうにか、その衝動をいくらかまともな目的へそらすことができた。
下の室内からカタカタいう音が聞こえた。スーダは誰にも気取られぬように、音を立てずに位置を変えると、室内を見ることができたが、それ以上何の音もしなかった。破片が動いた音だろう。営倉とはいえ、物が溢れていた彼の個室は爆発で破壊され、こうした音はここ数時間ありふれたものになっていた。
眼下を少し眺めただけでも、失われた物の大きさは見て取れる。彼の人生で純粋に「創造的」といえる唯一の結実であった蘭。船は完全に敵の手に落ち、仲間の乗員はほとんど死に絶えただろう。そしてなによりも、なけなしの精神コントロールまで破壊されてしまったのだ。これまではまだ薄弱であっても、いつかはスーダに平安をもたらす希望だったのに。
「何か船のために・・・」代わって昔なじみの暴力が彼の中に渦巻いていた。もうどうでもよかった。この船と、忌々しいほど寛大な宇宙艦隊の規律がなければ、今頃自分は死んでいたはずだ。そうなら魔物も永遠に沈黙し、死の欲望も満たされていただろう。アルファ宇宙域ではスーダは事の成り行きでマキの一員となり、殺人衝動を「相応しい目的」に利用していた。彼は愛国者などではない、単なる中毒だ。常に犠牲者の血に手を染め、敵の最後のあえぎを聞いていないと治まらない。新たな死は、暫くの間だけでもその声を止めることができた。
「少しばかり上手くやりすぎるんです。」チャコティの言葉がトゥボックの記憶とともにスーダに伝わってきた。トゥボックとの精神融合はスーダに生まれて初めて心の平穏を与えたが、一方で、その恩人の精神を破壊するところだった。
「時々スーダを止めなければならなかったんですが、そんな時、彼はあとちょっとで私のことも殺すところだったと思いますよ。」
副長・・あんたがどれだけ正しかったか知っていればね・・・ひとたび血が流れれば、それが敵か味方かなど関係なかった。運悪くトゥボックも知ることになったが、それは飢餓と同じ本能なのだ。スーダがカーデシア人を血祭りに挙げている最中にチャコティが邪魔に入ったら、チャコティ自身が餌食になっていたに違いない。
スーダは服の袖で額の汗をぬぐった。ダーウィンを殺した罪で監禁されてからというもの、食事とトゥボックとの瞑想の時間以外、外の世界とは隔絶されていたので、船内で何が起こっているのかほとんど知らなかった。元々機関部に配属されていた時もそう情報通だったわけでもない。もちろん、セスカとケイゾンのカーラのことは知っていたし、最近マイケル・ジョナスの裏切りが明るみに出て、彼が死んだことも知っていた。現在の危機もセスカの仕業だと思っていた。
ボイジャーの船内でスーダを理解できるものがいたとしたら、それは機関部にいたマキの仲間だったはずだ。セスカがカーデシアのスパイだと分かっても驚きはしなかったし、ジョナスの場合は、チャコティの船に居た時から何かにつけてセスカの腰巾着だった。意気地なしが、ご主人様の選択を誤ったということだ。
スーダは思わず笑いを噛み殺した。ボイジャーとチャコティの船の乗組員がデルタ宇宙域に飛ばされて数ヶ月、機関部は船内で最も危険な場所だったわけた。セスカ、ジョナス、ホーガンにスーダ、それに短期間とはいえトレスといった機関部員は船の危険分子であり、直接にせよ、遠まわしにせよ、何度か船に非常に深刻な危機を晒した。船内で同じように危険な場所は唯一食堂だけだ。強いてあげれば、ニーリックスが(善意からとはいえ)、乗員達のささやかな幸福を台無しにはしていたが、こちらはドクターが適切な治療を施した。
追想は長くは続かなかった。ニーリックスが食事を運んでくるたび、もう他の乗組員達の話を聞くこともできないことを思い知らされたが、それはもはや大したことではなかった。今船内の通路で聞こえるのは全て敵の声なのだ。スーダの頭の中の声は、戦場の真っ只中で命を刈り取っていた、あの時に今こそ戻るべきだと主張していた。
「何か船のためになること」でもどうやって?
「殺せ!」しかも、これは正当な殺しだぞ。仲間はお前を必要としてる。響きあう声の中にトゥボックの声が聞こえた。彼の声も感謝に充ちていた。以前のスーダは殺しを正当化する必要などなかった。頭の中の声が論理を駆使して彼を挑発しているということは、トゥボックとの定期的な訓練で、心を統制し静めようとした努力が完全に無に帰したわけでないことを雄弁に語っていた。スーダは嬉しかった。精神融合の前なら、機会さえあればトゥボックを殺していただろう。まさしく、精神融合こそ、二人にとって命綱だったのだ。
スーダはトゥボックがまだ生きていてほしいと願った。ジェインウェイ艦長がスーダの部屋を出てからは、トゥボックとは一度も話をしていない。「船のために何か貢献させてほしい」と懇願したのに、結局はパニックに陥ってしまった自分に激しい怒りを感じていた。
あの時、トゥボックの厳格な声で、スーダはゆっくりと震えながらも息をついで自分自身を制御し、魔物にコントロールを奪われる前にかろうじて自分の行動を抑えることができた。しかし、もはや手遅れだった。トゥボックが割って入る前にもうジェインウェイ艦長の表情は、スーダの目が今にも危害を加えようと怪しく光るのを見たと言っていた。漆黒の瞳の奥に潜む魔の淵、スーダの懇願に拍子を合わせて身を隠す人殺しの悪魔を見届けたと。トゥボックの目にも非合理なことに恐怖が浮かんでいた。かつて、彼自身が血を求める暴力の声と自己破壊とも言える闘いをした記憶のせいだ。
ジェインウェイ艦長は船内の農作物を増産するという提案を拒否した。話すのが早すぎたのかもしれない。多分、そのうち、艦長はトゥボックとケスの意見を聞いて、スーダに手伝わせてくれるかもしれない。しかし、もう彼には知る由も無い。敵は全て始末をつけてしまった。それゆえに、敵は代償を支払うことになるだろう。
トゥボックから学んだ瞑想法の一つを使って、スーダは頭の声を沈め、暫く回りの音に耳を傾けた。沈黙を妨げるものは何もなかった。破片ですら、スーダの集中力を邪魔したくないというようだ。ついに動いても安全だと確信し、スーダは部屋の残骸の中にすべり降りた。何か使えそうなものを探した。デルタ宇宙域で初めてスーダは闘うべき相手を得たが、共に立ち向かう仲間は誰もいなかった。心の中ではトゥボックが理論と規律を進言していたが、スーダが決した方針に反論はしなかった。むしろ、意識の共有というプロセスは彼に有利に働いた。スーダはどんなに脆弱であっても自己コントロールができる。だから、もう盲目的な激怒に駆られるのではなく、意図的に殺すことができると確信していた。
スーダが廊下の暗がりに足を踏み出すと、彼の頭の中では喝采が聞こえた。
"STAR TREK"は Paramount
Pictures社の登録商標です。
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