-- 解説 より抜粋 --
だれもがせつないまでに愛を求め、生を求めながら、歴史上の事件と関わって生きてゆき、あるいは死んでゆく。
現在の姿になる以前の、最初のマジソン・スクエア・ガーデンや、ワシントン広場の凱旋門の設計者として知られるスタンフォード・ホワイトが射殺された事件は実話であり、美貌のモデル、イブリン・ネスビットも実在の人物だが、このドラマの核を成す人びとの大半はドクロロウが創作し、フォアマンが、血を通わせていきいきとした人間像を創りあげている。
不思議な事に、彼らは黒人ピアニストのコールハウス・ウォーカーとセーラ、それに消防隊長コンクリンを除いて誰もが名前というものを持っていない。
ファーザー-一家は、ファーザー(父)以下、マザー(母)、ヤンガー・ブラザー(弟)、リトル・ボーイ(少年)と呼ばれ、ユダヤ人のターテとはイーディッシュ(ユダヤ語)で父の意味だ。
題名の「ラグタイム」とは、ジャズの一要素となったピアノの演奏スタイル。シンコベーション(切分方)をきかせたそのリズムに対する名称で、1890年代から1910年にかけてピアノ曲、ジャズ演奏などに大きな影響を与えたと言われ、(ラグタイム王)と呼ばれたスコット・ジョブリンの数多い作品によって流行の波に乗った。ドクトロウの小説『ラグタイム』は、独特のリズムを持つこのラグタイムのリズム感をドラマ構成に応用して書かれたものである。
他に『タイム・アフター・タイム』『サマー・ナイト』のメリー・スティンバーゲン、『カッコーの巣の上で』『天国の門』などのブラッド・ダリフ、『アンドロメダ・・・・』のジェームス・オルスン、ブロードウェイの舞台での『エビータ』のチェ・ゲバラ役で脚光を浴びたマンディ・パティンキン、『この生命誰のもの』のケネス・マクミラン、ブロードウェイの舞台を中心に活躍するデビー・アレン・ハワード・ロリンズなど。個性の強い演技派による競演ぶりが楽しい。
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-- 物語 より抜粋 --
マザーの弟にあたるヤンガー・ブラザーはモデルからソウの妻になり、いまや殺人犯の妻として世間の好奇の目を集めているイブリン・ネスビットに夢中だった。彼の頭の中は輝くばかりに美しいイブリンのことでいっぱいで、花火を作る本業のほうは、すっかりお留守になっていた。
今日もまた、イブリンのあとをつけてスラムと化した移民居住地区へ足を踏み入れたヤンガー・ブラザーは、道端で黒い紙を切り抜いて肖像がを作るユダヤ人影絵師のモデルになっている彼女の姿を、熱っぽい目で見つめていた。
そんなヤンガー・ブラザーの想いが通じたのは間もなくのことだった。イブリンは快く彼の恋を受け入れたが、彼らの密会の場に姿を現したのソウの母親の弁護士は、イブリンに支払う約束の100万ドルを、わずか2万5000ドルしか払わないで引き上げていった。
とにかくイブリンの離婚が成立し、ヤンガー・ブラザーは彼女を姉夫婦に紹介する手はずを整えた。だが、いまのイブリンの夢は、妻の座よりもショー・ビジネス界での成功だ。ヤンガー・ブラザーの恋も夢も、彼女の野望の前には消えざるをえなかった。
すべては、新型フォードに乗ったウォーカーが、ウィリー・コンクリンを長とする消防隊員たちから悪どいイヤがらせを受けたことに始まった。
ウォーカーの怒りは当然だった。ところが、世はまだ白人の時代で、黒人差別が歴然と存在していた時代だから、なにもかも彼にとっては不利だった。
彼は決して譲らず、そのためにセーラを無残な死に追いやることになった。
この日、幸か不幸かコンクリンの姿はなく、怒りをつのらせたウォーカーとその仲間は大量の爆弾をかかえてアメリカ中の財宝が収蔵されているモーガン図書館にたてこもった。
一味の中にはイブリンに捨てられたヤンガー・ブラザーが加わっていた。彼の花火作りの腕は、爆弾作りに大いに役にたった。 |
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-- まだ知らなかった一つの時代と世界 より抜粋 --
ジェームズ・キャグニーやドナルド・オコナーやパット・オブライエンのような懐かしい俳優たちがそれぞれ実在の人物を演じているのも楽しかった。キャグニーはすっかり肥っちゃたし、オコナーも変わってしまった。ジェームス・オルスンのファーザー(父)も、メリー・スティンバーゲンのマザー(母)も、ブラッド・ダリフのヤンガー・ブラザー(弟)も時代に流され、もてあそばれる、名もない市民として好演である。 |
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-- 出演者メモ より抜粋 --
ヤンガー・ブラザー(弟)
ブラッド・ダリフ
美女イブリンに失恋してテロリストの仲間入り。花火作りの技術を爆弾製造に生かして世間を騒がすことになる。ヤンガー・ブラザー役を演じて、忘れがたい印象を残す性格派。ミロシュ・フォアマン監督とは、『カッコーの巣の上で』以来のつながりがあり、このときの好演によって、ヤンガー・ブラザー役に選ばれたという。
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ハリー・K・ソウ
ロバート・ジョイ
著名な建築家スタンフォード・ホワイトを射殺したピッツバーグの富豪の御曹子、ハリー・K・ソウの役で異様な個性をきわだたせる若手の有望株。
同年、カナダ製の『天国への切符』(日本未公開)に出演したのち、オーディションを受けて『ラグタイム』への出演が決定。はじめの予定では、ヤンガー・ブラザーの役だったが、いざ撮影になったらソウ役に変わっていたそうだ。 |
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-- 事実とフィクション 同一ラインで一つの時代を より抜粋 --
この作品には、三つの人種が登場し、それがまた、今に至る象徴のようになっているのも、なんともうまいところだ。アングロ・サクソン系のファーザー、マーザー、ヤンガー・ブラザーなどのファミリー。コールハウス・ウォーカー・ジュニアとサーラの黒人ファミリー。それにターテと娘さんのユダヤ移民のファミリーである。この三つのファミリーが、なんだか活動写真の、弁士の説明ででもあるかのように”運命の糸にあやつられて(!)”出会いを重ねていく。しかもそこに殺人者ハリー・K・ソウの妻イヴリン・ネスビットまでが加わってくるから、整理するのが大変だ。2、3度、頭をふってみないと、すっきりしない程である。まず、アングロ・サクソンのファミリーは、捨児を拾ったことから黒人一家と深いかかわりを持ち、別ルートでヤンガー・ブラザーは、イヴリン・ネスビットに振られたこともあって、黒人グループの仲間に入っていく。一方、ユダヤ移民のターテは、街頭の影絵師時代にイヴリン・ネスビットと知り合いになり、ここではヤンガー・ブラザーも少しからみ、さらには影絵師のアイディア成功から、ニッケル・オデオン時代の映画界へと入っていく。 |